連載読物 目次

幸運をバイする旅人(たびにん)〜〜縁日はテキヤの庭〜〜


第一章 なりはガキでも商売上手
第一章 なりはガキでも商売上手
暮れ正月はテキヤにとっての稼ぎどき。初詣で賑わう神社や寺の境内で、...
第一章 -2-
ヒデのオヤジが、坊主からテキヤに転身したのは、昭和でいえば二十八、...
第一章 -3-
まさに、「門前の小僧、習わぬタンカを言う」である。タンカとはテキヤ...
第一章 -4-
露店の準備は夜明け前から始まる。夜空にまだ星がまたいている時間にヒ...
第一章 -5-
それでもリヤカーは重い。ヒデの住んでいる長屋から豊川稲荷までは直線...
第一章 -6-
出がけに震えていた肩からは、いつのまにか湯気が立ち上っている。寒さ...
第一章 -7-
三寸を組み立てると同時に、屋根を張る。竹とテント布を使った手作りの...
第一章 -8-
最近では組み立て式の三寸や天張りが出回ってきて、大のオトナでもそう...
第一章 -9-
豊川でヒデにものを教えてくれたのは、長屋の隣の熊六一家の親分だ。薪...
第一章 -10-
ヒデのテキヤ人生がスタートするにあたって、もうひとり忘れてならない...
第一章 -12-
武太郎は靴のバサ打ちをしていた。キズモノや職人見習いの作った少々い...
第一章 -13-
タカマチと呼ばれる縁日や祭りの露店と違うのは、扱っている商品が近所...
第一章 -14-
早苗は、当時はめったにお目にかかれない女子大出の才媛で、代議士秘書...
第一章 -15-
早苗と武太郎が知り合ったのは、上野のお山の花見である。映画のように...
第一章 -16-
どこのタカマチでも、ヒデ一家の商品は売れに売れたり、東京じゃ御殿に...
第一章 -18-
そのうえ、オヤジは宗教関係の分厚くて高い本を見境なく買ってしまう。...
第二章 旅から旅へのテキヤ稼業
第二章旅から旅へのテキヤ稼業-1-
両親は旅に出ていることが多い。旅といっても温泉旅行などではない。旅...
第二章 -2-
ヒデの年頃で旅から旅へのバイを経験している者はほとんどいないだろう...
第二章 -3-
ヒデ一家の扱う商品「ノゾキ」や「テコボウ」は小さくて軽いので旅に持...
第二章 -4-
夜が白々と明ける頃、夜行列車が駅に到着する。ヒデ一家も仲間たちも眠...
第二章 -5-
商売をしにきた旅人たち、仁売と呼ばれる地元の露店商衆、地場産業の組...
第二章 -6-
店の本数が二〇〜三〇本ぐらい、ボサと呼ばれる小さい縁日などは、チャ...
第二章 -7-
だいたい顔を揃えるメンツは決まっているので、たいがいのタカマチは去...
第二章 -8-
ヒデ一家の「オガミ」系は、寺社なら必ず境内の中、拝殿にもっとも近いと...
第二章 -9-
テキヤの商売をする場所、お祭や縁日などのタカマチを「庭」と呼び、そ...
第二章 -10-
地元のテキヤのバックにヤクザ組織がついていたような場合、タカマチで...
第二章 -11-
もちろん、そういうことには利権も生まれてくるから、ヤクザ者との境界...
第二章 -12-
大きなトラブルが起きると、オオタカなどでもネカる場合がある。つまり...
第二章 -13-
ショバが決まると、さっそく三寸を組み立て、天張りを上げて開店の準備...
第二章 -14-
その日の商売が終わるとドヤに引き上げ、汗を流して眠る。二日、三日と...
第二章 -15-
昔の人は面倒見がいい。チッキで送られた荷物は、商売が終わって、夕方...
第三章 わが家にクルマがやってきた
第三章 わが家にクルマがやってきた-1-
「裏の鍵はかけたか?」「何回、聞くんだよ。ちゃんとかけたって」「忘れ物は...
第三章 -2-
いや、遊んでいられる時間はほんの一時、雨の日ぐらいだ。売店の前の駐...
第三章 -3-
トウモロコシが終わると次は焼き栗だ。栗も近隣の農家から持ち込まれて...
第三章 -5-
金曜日になるとヒデには重要な仕事があった。学校から帰ってくると、小...
第三章 -6-
ヒデが開けようとすると鍵がかかっていた。姉さんがヒデをからかおうと...
第三章 -7-
日が暮れて、食事の時間になってもそのまま。「墓場を一回りしてこい」...
第三章 -8-
夢路は、滝にあたって修行をしている治久の姿に後光がさしていたと口癖...
第三章 -9-
ブルン、ブルル……、カチッ。「もう一回やってみろ」 道路から大きな声が響...
第三章 -10-
いざ、出発。今日は大垂水峠を越えて、甲府のほうへ商売に行く。もちろ...
第三章 -11-
ヒデ一家は、主に東海道に沿った縁日や祭を中心に商売していた。いまで...
第三章 -12-
クルマ社会になってからは、テキヤ商売も大きく変わった。荷物を背負っ...
第三章 -13-
ヒデのオヤジが生んだヒット商品のひとつに切り株の上に鳥を乗せた飾り...
第三章 -14-
ヒデにとってはうれしくない。オヤジたちが留守のときでも「学校から帰...
第三章 -15-
四月になると姉の由紀枝が中学生になる。オヤジは若い衆を家から出すこ...
第三章 -16-
ヒデも兄貴もというが、ヒデと兄の扱いはずいぶん違った。オヤジは兄貴...
第三章 -17-
ある意味、オヤジはヒデの商売の天分を見抜いていたのかもしれない。ガ...
第三章 -18-
ヒデ一家の暮らしは倹しい。ケチというわけではなく、貧乏というわけで...
第三章 -19-
「これが可愛そうな狼少女でございます。子ども頃に狼にさらわれ、生きた...
第三章 -20-
日が落ちると鴨江寺の境内にはあちこちからうまそうな臭いが漂ってくる...
第三章 -21-
「遠州お鴨江参り」といって彼岸には近隣から多くの人が訪れる鴨江寺の...
第三章 -22-
テキヤ同士にだって厳格なマナーがある。たとえば、女の人はみんな「姐さ...
第三章 -23-
香具師の世界には初財布は縁起がいいという考え方があり、財布を買って...
第三章 -24-
風呂屋から帰ってくれば、もうすることはない。三寸の下にビラ(ベニヤ板...





第三章 -17-

 ある意味、オヤジはヒデの商売の天分を見抜いていたのかもしれない。ガキの頃から教えたわけでもないのにタンカを覚え、機を見るに敏で、商売の阿吽を飲み込んでいるような子どもだった。
 納得はしていた。疑問があったわけでない。しかし、日常生活の差別となれば、これは次元が違う。ヒデには「なんで俺だけ」というオヤジに対する怒りや憎しみが心のどこかにくすぶっていた。
 こんなことがあった。ヒデ一家は朝飯に生卵を食べる習慣があったが、これはふたりで一個と決められていた。ヒデは生卵を割り、醤油を落としてかき混ぜる。まず自分のご飯に半分入れて、残りを兄貴に回そうとしたところ、ある日、ずるっと大量の白味がヒデの茶碗の中に入ってしまった。「しまった」と思ったがもう遅い。
 それをオヤジが見咎めたのである。
「自分だけ、食おうとするのかっ」
 オヤジの怒鳴り声と、おおむね同時に鉄拳が飛んでくる。避けるまもなく、ヒデは壁際にすっとんだ。わざとしたわけではない。かき回し方が悪いといえばそうなのだろうが、卵の白味が固まって一緒に入っちゃうなんてことは、よくあるじゃないか。兄貴は平然と飯を食っている。その日以来、ヒデは生卵が大嫌いになり、口にしたことはない。


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第三章 -18-
第三章 -16-