テキヤ物語

　クルマ社会になってからは、テキヤ商売も大きく変わった。荷物を背負って列車に乗るのとは違い、重いものでもかさばるものでも少人数で運べるのでまず商品構成が変わる。鉄板やボンベが運べるので、食べ物を売る人々も増えた。オヤジは人と同じものはバイしないという主義だったので、いろいろ試行錯誤しながらさまざまな商品を考案した。よく通過する蒲郡は瓦が有名。よし、それで植木鉢を作ろう。それに三河の黒松を植えよう。植木鉢に松の苗木を植えて、盆栽にする前の状態で売る。盆栽を作る楽しみを売るキットのようなもので、手間はかかるが売れ行きは好調だった。
　人と同じものをバイしないというのは、競争に勝つ原理でもあった。食べ物など、特別にタンカが必要なわけでもなく、ただ店を出せばそこそこは稼げるという商売がしやすくなった。そのためテキヤでバイトをする近所の奥さんや学生などが出現し、クルマの増加とともにテキヤの数もどんどん増えていった。素人の業界参入である。ライバルを倒すにはそれなりの工夫が必要だ。
　ビジネスはアイデアである。

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