テキヤ物語

　だいたい顔を揃えるメンツは決まっているので、たいがいのタカマチは去年と同じようなショバ割りになる。「ネンキョ通り！」という世話人の声が響く。
去年をネンキョといったり、場所をショバといったりする逆さ言葉は、こういう世界から生まれたものが多い。芸能界ももともとは興行の世界だから、それからテレビへ。一般の人にも広がって、説明しなくてもわかる言葉になっているものも多くなった。

　与えられた場所によって、人の流れによって、売れ行きも売れるものの種類も違う。参拝客はフラフラと露店をのぞきながら、神社仏閣の参拝し、帰りに、お守りなどがあれば手にとってみたり、買ってくれればヒデにとってはなおありがたいが、そのあと、たこ焼きや焼きそばのにおいにひかれてツギモノに食指をのばす。食い物をツギモノという理由はわからないが、次々に作るからかもしれないと子ども心に思った。ゴランが多いタカマチならチャモやスイチカ、セルメンに足を止めるジンも多く、デンキ、アゲチカとそれぞれが気ままに縁日を楽しむ。
　おっと、また業界用語じゃ、わからないか。ゴランは子ども、年配者はオオドシと呼ばれる。客はすべてジンだ。チカというのは風船のことで、スイチカならいわゆる水ヨーヨー、アゲチカは空に上がる風船だ。チャモは玩具だが、大きなものは大チャモ、ビー玉やメンコなどこまごまと並べる店をゴモクと言ったりもする。デンキは綿飴のことで、セルメンはセルロイドの面。当時は月光仮面や鉄腕アトムなどに人気があった。

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